やっぱりLiveが好き

目の前の空間を味わうのが好きな人の記録🍀

「坂東玉三郎 御園座新春特別舞踊公演」御園座 1/3,4

去年9月、御園座が新しくなって初めての玉さまの公演、そのときにはエアウィーヴ主催ということもあってなかなか一般の人にチケットが行き渡らなかったことから、その時の口上中でも、「観られなかった方のためになにか考えている」という風に仰っていて、そのうち公演があるのかなぁと思っていたらまさかの4ヶ月後に次の公演。
観ることができなかったお客さんへの気持ちがこういう形になって早くも実現したのかなぁ。

<口上>

幕があがると真ん中に玉さま!当たり前(笑)だけど嬉しいー!!!うひゃー!!!
「あけましておめでとうござりまする」開口一番、まずこのご挨拶が聞けたよおお!!あーお正月、ありがたい。お正月を玉さまと迎えられるとは、なんて素敵なんだろう…おめでたく軽やかで幸せな雰囲気。最高。まだ玉さまの一言目だけど!!!
御園座は八千代座よりは広いから、劇場の大きさに合わせて(八千代座よりも遠い所へ届くように)変えてらっしゃるのかなぁと思う声の大きさに感じられたし張りがあって素敵なお声だった!!

御園座が新しくなってから去年初めて公演を行い、そのときはエアウィーヴの主催だったが今回は御園座主催、御園座さんに呼んでいただいたとのこと。前回の9月も満員のお客様、今回も同様で有難いと仰って上手下手をご覧になってたと思う。

御園座との最初のご縁は昭和44年とのこと。そのつぎに孝夫さん、今の仁左衛門さんと初めて女雛男雛で一緒に出て、それ以来相手役として今日まで50何年も、やってこれたことについてお話されてた。玉さまは歌舞伎座でお染七役を演じ、それで御園座からもお声がかかり、御園座、ひと月あいて中日劇場に出演と、よく名古屋には来ていてご縁があったとのこと。

御園座には昔、中の人用の食堂があったそうで、その食堂のおばちゃん*1がもう品切れているのに玉さまの好きなものを取っておいてたりしてくれていて、あと他の劇場(中日劇場のことだったかな?)も食堂のおばちゃんがそんな風にしてくれてて、ありがたかったそう。
あと、劇場の四階には中の人が宿泊できるところもあったそうで(今はビルだからそういったことはできないらしい)、玉さま自身は泊まることはできなかったけど、当時の(幹部のような)人達(のことと思う)が泊まっていて、入ったことがあるが豪華なところだったとのこと。また夜にそこに呼んでもらって芝居の話をしていたこともあったそう。

そして今回の演目について。地唄の「雪」竹原はん先生が踊られていたが玉さまも20年前から踊り始めたとのこと。他にも仰っていたことがあったはずだが忘れてしまった…。
「鐘ヶ岬」は京鹿子娘道成寺がもとだが、道成寺は全編を踊るのが大変だがこちらは短縮?凝縮したようになっていて、女方として大事な踊りなので(ちょっとうろ覚え、ちがうかも)一生踊っていきたい とのこと。
富山清琴さん達のことにも触れ、今の清琴さん、ご子息の清仁さんの頑張りのことについてもお話されてた。
「阿古屋琴責」阿古屋は歌右衛門さん時代から玉さまへと、一人がやってきた(一人しかやれなかった)演目だが、一昨年梅枝くんと児太郎さん*2が演ずるようになり、また二人を見て三曲演奏ができれば阿古屋ができるかもしれないというきもちが他の若手の人も持てたようで他にも練習し出した人達がいて、以前は阿古屋の中の三曲の演奏のみで以前はいいのかな、と申し訳なく思っていたこともあるが今回阿古屋を後輩に渡せて肩の荷がおりてほっとして演奏できる、と。渡した人たちが演ずること、まだまだではあるが見守ってほしいというような趣旨のことも仰ってた。そして、私は演奏家ではないので、あくまで阿古屋が演奏している、ということで聴いてほしいとのこと。

なんでも液晶の画面ひとつで済む、完結してしまう今、劇場で同じ時空をお客様と過ごすこと、体感することが大事だと思っている。一期一会の機会を大事にしていきたい、皆様に劇場に足を運んでいただきたい、というようなことを仰ってた。このことは毎回のようにお話されているが、本当にその通りだと思う。
でも、自分の意識次第で受け取れたり受け取れなかったりする。今回風邪が残っている状態で行って、咳込むと止まらなくなる時があるから凄く用心してたけど、3日の口上最後で咳込んでしまった。やっぱり気もそぞろになってたなぁ。4日は咳込むこともなく舞台に、玉さまにぐっと集中して観ることができてそれだけで有難かった。体調を整えておくことは大事、痛感。

<雪>

京丹後公演、演劇人祭、MOA能楽堂。何度も拝見して、その時々でぐっと集中したりしんとした空気感が好きだったり色々だったけど、やっぱり見るほどにその良さがわかるようになってきた。身体というか細胞に染み渡るような、全身で受け止めるようなかんじ。じゃあそれってなに?っていうと、すべて。もうすべてとしか言いようがない。幕が上がった時のお姿、身体のお着物の線、傾き、傘のおかれ方、そこからつぎの一瞬一瞬、玉さまの表情、そこから見える感情、玉さまの、その役の存在から伝わるなにか・・・ってやっぱり全部!!!どの瞬間も好き。好きとしか言いようがない。そう感じてる「今」を過ぎたらまた違う感想が出てくるのかなぁ。またどこかで演じていただきたい。

<阿古屋琴責>

三曲を弾くのみ、とはどういう風になるのか謎だったけど、幕があがって背景は何もない黒一色。上手に勝四郎さん勝国さんたちの唄と三味線四人の方々。舞台中央にお琴が置かれていてその左後方に打掛がかかってる。唄が始まりしばらくすると、その打掛の後ろから阿古屋が登場。そこから中央にこられるんだけど、その歩き姿だけで「阿古屋」であり、阿古屋の背景を感じさせるくらい醸し出される雰囲気が濃密。それが凄い。 
お琴。阿古屋が座るその前に玉雪さんが後見として登場。阿古屋の時とは違って完全に素での後見のお姿。終わって戻られるときは打掛の後ろへ(打掛があるから全身見えなくなる)。玉雪さんはその場所から楽器が変わるたびに出てお戻りになられてた。阿古屋のお化粧も違った。この後の演目の為にだと思うけど、いつもの阿古屋の時のきゅっと上に弧を描くような眉毛ではなく、普通(地唄舞の時のような)の眉毛。阿古屋の登場の仕方も玉雪さんの出方入り方も、阿古屋の眉毛もすべてが新鮮な感じがした。
いつもは阿古屋のリードに合わせる地方さんという印象だったけど、今回はそこにいらっしゃるすべての人で奏でる音楽という感じがした。3日よりも4日の方が勝国さんの三味線と玉さまお琴のテンポが合っていたように感じて複数で合わせるより少人数で合わせる方が音が目立つし大変なのかも。
勝四郎さんの唄、勝国さんの三味線、もしかしたら阿古屋のときと全く同じなのかもしれないけど特に始まりの部分、若干違う部分があった気がする。その部分かっこよかった。
お琴が終わった時に、玉雪さんはこれから三味線をひく阿古屋玉さまの帯等の準備、功一さんも素の後見姿で舞台袖から現れてお琴を下げに来られ、舞台上にすでにある三味線を阿古屋玉さまのもとへ渡しに行かれてた。それが三味線が終わって胡弓の時も同様にあったけど、まっすぐな姿勢にさっと立って去られるお姿とかかっこいいんだよなぁ。お二人のこともじっと拝見。
三味線の唄は勝四郎さんのみで始まって、いつもと違うのでまた新鮮に聴こえた。胡弓の時、その響きから伝わるなにか、玉さま阿古屋から醸し出されるなにかは最後に行けば行くほど、どんどん引き込まれるようになっていっている気がする。間の芝居はないけれど、そこにあの場面の阿古屋がいて、静かに音楽を奏でる姿に集中できて、三曲のみの阿古屋琴責もまた別の魅力があって素敵だった。こちらもまた拝見したい。

<鐘ヶ岬>

MOA能楽堂以来の鐘ヶ岬。そして今回は舞台が大きいから鐘がある!!能楽堂のようなところでの鐘のない舞台も好きだけど、あると嬉しさが一気に爆発する!桜が舞う中、客席に背を向けて可憐な玉さまが佇んでおられるのだけど、そのお姿とは反対に時折鐘を見つめる目が、道成寺の時ほど鋭くはなくても、逆にわかりやすい鋭さではないからこその思いの重さを感じる。引抜の時、玉雪さんが出て来られるから「始まる!」ってワクワクするんだけど、後ろでその作業をしている玉雪さんとは反対に、玉さま清姫は本当に涼しいお顔で、後ろで起こっていることなど何もないかのように踊っておられる中で、恐らく玉雪さんがやりやすいような工夫をされているのだろうな、そして玉雪さんも同様に。それをお客様に「魅せる」ということですべてが見えないように気づかれないようにしていることが本当に凄いと思う。このことは同じく観た友達とも話したのだけど、たとえば阿古屋琴責の始まる前にお二人で打掛の後ろで控えている時、一体どんな空気が流れているんだろう、とか、今更言葉にするまででもない絶対的な信頼がお互いにあるって物凄いことだよなぁ、と思う。で、鐘ヶ岬でお着物が最後に後ろからするっと抜かれる時、MOAでも書いたかもだけど、そのゆったりとした、全く雑なところのない動き、それそのものがとっても上品でそれだけでなにかを語るような、感情が動かされるような何かがあって心を持っていかれる。ただただ引き抜いてお着物変わりました、凄いですね、華やかですね、でおわりじゃない。それがすでに表現になってるようにも感じられる。


<カーテンコール>

拍手のなか、幕が上がってお辞儀をされた玉さまが鐘ヶ岬のままで舞台中央にいらっしゃる。上手、下手をご覧になられ、中央でお辞儀のまま幕が下りる。拍手鳴りやまず二回目のカーテンコール。今度は舞台中央から立ってくださって、舞台前方上手の方へ行かれて一階、二階のお客様のほうをじっくり見てお辞儀。そして次は下手
*3舞台上だけで終わらず、今回は特に使用することがなかった花道の中央付近まで行かれて、一階、二階のお客様へお辞儀。七三の辺りでも、花道の外側、内側のお客様をご覧になってお辞儀してくださった。舞台中央へ戻り、富山清琴さん達の方へ手をかかげ、客席もお二人へひときわ大きな拍手を送る。玉さまがもう一度、舞台中央でお座りになり、お辞儀をされて幕が下りた。その時の玉さまの表情がとっても晴れやかで明るくて少し微笑まれていて、見ているこちらにもそのお気持ちが伝わってるようで本当に幸せな気持ちになった。玉さまのこの笑顔が見られることが嬉しくてしょうがない。お正月から、素晴らしいものを見せていただき、同じ時間空間を共有できて喜びでいっぱいでした。

*1:食堂のおばちゃん、と仰る玉さまのかわゆさ!食堂のおばちゃんという言葉は何歳でも言うのかもしれないけど、なんとなく20代の頃の玉さまの目をとおして語られた風景のような、ノスタルジーを感じる一言

*2:3日はなぜか梅枝さんには「君」コタさんには「さん」だった、というどうでもいいかもしれないが私には『ほー!』と思った話。ちなみに4日はなんて仰ってたか忘れてしまった

*3:四日の日はそのまま下手へ行かず、中央辺りにいらっしゃるのお客様のことを少しご覧になって会釈されて下手へ