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「六月大歌舞伎」6/5,10 歌舞伎座〈桜姫東文章 下の巻〉

千次郎さんが登場して前回上の巻をあらすじをざっと説明。舞台真ん中に大きいスクリーンを使い、写真も映しながらの説明で、写真のチョイスがなかなか良いです(笑)


残月と長浦のいる庵室の場面。
残月の歌六さん、自分が観てきたお役は白髪の鬘がほとんどなので姿だけだとわからず(笑)お声ですぐに判明。

長浦の吉弥さんとは上の巻でもすばらしかったけど、月日が少し流れてこういう腐れ縁夫婦のようになってからも、息のあったやりとりがさすがで。
最後に花道から出ていくまで、こずるくて悪い役を魅力的に演じていて、それがよりこの話や主役お二人を際立たせる、本当に上手い人たちなんだなぁと思う。


衝立(と言うのか呼び名がわからず)の向こうに病んで伏しているのは清玄で、連れてきた桜姫の子を抱え、この子に飲ませるお乳がないことを嘆いていて、

そこにやってきた孝太郎さんの役は、自分の子が幼くして僧にたぶらかされて死んでしまった、と。それが清玄と心中しようとして一人だけ死んでしまった白菊丸。しかも桜姫の家臣軍助の妹っていう、このギュウギュウに人物相関を詰めた桜姫東文章の凄さよ…。

この若奥さんは清玄が抱えていた赤子を引き取り連れ帰ったのは桜姫の子と知っていたから?なのかな。調べていないのでわからないけど。

話の中の人物は知らないとはいえこんなに交錯する人間関係に本当にびっくりする。面白くするためのものだけど、でもそれがあざとくなく、無意味でもなく、その芝居を観ている私達がこんなに心揺さぶられるものを書くって南北って凄い…今まで気づいてなかったけど💦



清玄の持つ香箱を、金が入ってるものと勘違いした残月、長浦に毒をのまされそうになる清玄。抵抗するも顔にかかり顔面半分がただれ、首を絞められる。
この時の清玄が、殺されまいと必死に抵抗する姿、力の振り絞り方が、危機に直面したときの人間の自然な行動かもしれないけど、身体は弱っていても桜姫への執念からだったかもなぁ。


清玄は死んだ、と思った残月たちが呼んだのは、今は墓穴掘りの権助
そこに女郎として売りに出されてやって来た桜姫。計算高い権助は自分が桜姫を高く売って働かせるために桜姫を助ける(たぶん)。
権助は桜姫を「俺の女房だ」といって桜姫にも「(口裏あわせよ)」と伝えるんだけど、そう言われた桜姫が気分が良くなって、そんな権助がヒーローに見えてしまうのは、もうしょうがない💦


最初に観たのは三階から、二回目の観劇は一階でだったけど、やっぱり近くからでしかわからないことがあって!!
三階からもわかるかもしれないけど、そこを注意して見てない所だったから、一階で気づいてこんな凄い瞬間を見逃してたなんて!と思ったわけですが(笑)その場面というのが権助と桜姫のこと↓


にざ様の演じる権助は、もう本当に本当にかっこよかった…上の巻で十分すぎるほどわかっていたけれど、やっぱりその都度そのかっこよさに感心してため息が出るんですわ。

登場したときは、穴堀りなので脚の下半分の着物を上げた状態。姿勢といい、立ち止まった時の脚の開き方、歩き方…
他に桜姫の前に表れて(一見)守ろうとしている時、その立ち姿勢はもちろん、その身体、頭と胴体の角度、向け方がとてつもなく美しかった!!
歌舞伎の型というのは、どこまでをそう言うのかはちょっとわからないんだけど、仮に型だとしても、役と心と他の役との関係を一瞬でこれだけわかり、魅せることができるってなんて凄いんだろう!!と思います。
劇場で観てるときは、ひたすら引き込まれて圧倒されて釘付けになってるんですけどね(笑)こんな瞬間が何度も訪れる歌舞伎が、役者さんが本当に凄い。


そんな権助にまんまと騙されていく桜姫だけど、それも仕方ないくらい権助は上手い💦
守られた世界で生きてきた桜姫が、その外の何もわからない世界で、自分を助けてくれる惚れた権助を頼るのも無理はない。
でもその様を見ていて、権助が守るからこそか弱い桜姫に自らなっていっている、という気もして。
とはいえ、このまま売られても同じようになったかもしれないしもっと悲惨になっていたかもなぁ…。
この弱い姫、という姿は、ストーリーが主役で書かれた筋により翻弄される者、という感じだった。



権助は桜姫に向かって、これから生きる場所に合うように『姫』から身なりもなにもかも下げるんだ、と告げて出ていった後、姫は以前使っていたような鏡を見つける。
姫として生きていた頃を懐かしみ、髪を整え飾りを付ける。今、権助に言われたことと対照的に、自分の純粋な喜びを思い出している様子をみているのが切なかった。
玉さまが演じる桜姫のそのしぐさ、佇まい、すべてにこのときの姫の気持ちがにじみ出ていて、昔を思い出す大切な場面だと思う。


そんな中、息を吹き返した清玄、追われる姫。
顔面がただれ瀕死であろうとも姫にすがることをやめない清玄の力が、強いわけでも暴力的なしぐさまででもない。
だけど、ひたすら姫を追いかける姿に物凄い執念を感じるし、本当にただそれだけ、っていう清玄を演じるのは簡単なことじゃないのではと思う。


経本を手にしてさっと開き、遮るものにすることで清玄の手から逃れようとする桜姫。
何冊か部屋に散乱し、最後の一本は桜姫が上の方に掲げ、人物の動きだけが止まる中、上から下にお経の本がパラパラとめくれて開き、落ちていく様子がとてつもなく美しい!!
凄惨な場面の中に現れる美しさ、ってまさにこの事を言うんだろうし、こんな瞬間を作り出すそのセンスのよさ!!!これは元の本からあるのか、演出でついたものかはわからないけどとにかく印象的だった。
三階から観ていた時は、このお経が落ちていく様に全く気づかず、一階で観たときに初めて知って、この場面に気づいて本当によかったと思いました(笑)


二人が庵室の外にまでなだれ込んで争う場面。
清玄は木の後ろに入った瞬間に別の役者さんに入れ替わっている、ということに二回目にして気づいた。
その清玄は権助の掘った穴に落ちるも自力で這い上がってくるくらい、その想いだけが身体も気力も自らの全てを動かしてる、という異常さを感じさせるのが凄い。
はずみで首に包丁が刺さった清玄が力尽きて消えた、と思ったら反対側からすぐに出てきたにざ様の権助
早変わりにしても早すぎる!と思うくらいの一瞬の間。初回に見たときには本当に早変わりかと思ったけどいくらなんでもあの時間の短さでは無理だろう、と思ってたらやはり↑そうでした(笑)よーく見てたら桜姫との身長差も少し違ったのに、違和感を感じさせない役者さんてやっぱり凄い。


簑でおおって桜姫に早速出ていくことをすすめる権助。二人が花道を歩いていくとき、姫には清玄が倒れた場所に火の玉が見え、権助には、清玄にできたただれが同じ顔の場所にできる。
この時の桜姫の全てを感じ取ったような表情、権助が後ろからその顔で姫を見つめる表情、その角度、そのすべてが鳥肌がたつような雰囲気を出していて、この場面を写真で事前に見ていたけど、実際はさらにさらにさらに凄かった…。


二幕目 権助住居

長屋の家主になっていた権助。今は女郎屋で「風鈴お姫」として人気のある桜姫が、清玄の霊が付きまとうからと返されて戻ってくる。子供をおいて代わりに女郎屋へ出される孝太郎さんのお十。桜姫の為にここにいたなんてさすがすぎる。
ここで子供を置いていくからこそ、桜姫がすべてのことを成すという、この話の凄さよ…。


戻ってきた姫が話す言葉に、姫と女郎の二面が現れているのが聞き取れるかなぁと思ったら私にはまだ難しかった。
だけど、完全に女郎でもない、醸し出されている曖昧さは感じられて、環境に染められた、染まらざるをえなかった姫、が哀しくも思えて。

こういう複雑なところを演じきる玉さまって本当に凄い。言葉や説明にはしきれない膨大な蓄積が玉さまの中にあって、それを丁寧に構築できるからこそこういった役を演じられて、観ている私達がすんなりとその役を何の不思議も抵抗もなく感じられる。


権助と桜姫が布団に寝転がってうつ伏せで顔だけあげて足ブラブラさせるあの場面てここか!と思いました(笑)桜姫は着物が足元まであるから?足バタバタはしてなかったけど、権助はバタバタ、二人とも手に顎をおいてかわいい(笑)


権助が出ていって桜姫一人になると、清玄の霊が現れる。このときも逃げるだけだった姫の時とは違う。
清玄から、赤子は姫の子であることを聞くと赤子にたいして冷たかった桜姫の態度が一変し愛しさでいっぱいの母親の顔に変わる。

権助は、清玄の弟で信夫の惣太であるということも知り、帰ってきた権助を姫がさらに酔わせて、姫の父も弟も殺し家宝を奪ったのも権助と知った姫の心に芽生えるもの、それがどんどん大きくなっていくのがわかる。

と同時に、ここで物語に翻弄される姫から、自分の手で自分の人生を取り戻したかのように感じた。

あんなに愛しくてたまらなかった我が子を何度かの躊躇がありつつも決心して殺し、その後権助を殺す。
…子を殺すことも知っていたけど、いざ目の前にすると、その前の母としての姿からそれを実行する強さ。生かすこともできたとは思う。物凄い葛藤をうむんだろうけど。だけど殺すことをも背負うというか、引き受けて突き進む姫にただ圧倒された。

殺されそうになる権助の髪がほどけて緊迫感がさらに増す時、とれるはずのゴム?が完全には外れず髪がほどけきらなかったのが二回目の観劇の時。どうされるのかなと思ってみてたら、体が転がったときにほどこうとするもそれでもほどけきれず、そのすぐあとに頭を思い切り振るとやっと取れて髪が全部ほどけた。
その間も全く不自然さはなくて、ほどけっぷりも見事でそこに全力で見入ってしまった(笑)


権助を殺すところを目撃されてつかまえるものが家の前にやってきた時、桜姫は取り戻した巻物を身体にしっかり結びつけ、家を絶対守るというものすごい強い意思が見えた。

家宝を取り戻した桜姫を守りながらやってくる錦之助さんと孝太郎さんがかっこいい。姫として戻ってきた桜姫。そしてその報告を受けとるにざ様のお役。

最後がこんなに清々しく晴れやかなものだと知らなかった!ただめでたし、なのではなく、桜姫や家臣達が色んなことを潜り抜けて切り開き取り戻してきた力強さを見ていても感じる。


切り口上

切り口上って観たことなかったので、こういう形で終わるのか!とちょっと衝撃でした。
にざ様のご挨拶が場をしめ、それに続くの玉さまの声は、劇場中に響く凛としたお声で目が覚めるようだった。
舞踊公演の時の口上とはまた全然別物で、この日に聞いたお声は、こちらの腹にぐっと迫るようと言うか、耳だけではなくて身体で受け止めるような感じがして、これには言葉にならない感激がありました。


最後の場面に登場のにざ様、玉さま、錦之助さん、孝太郎さん、福之助さんが並んでこうして幕が閉じると、
このお話、芝居を通して味わった凄さ、今のにざ様玉さまがこの役を演じてくださる有り難さ、今のお二人だからこんなにも心に刺さる舞台を観ることができたんだっていう、上を仰ぎ見たくなるような胸がいっぱいな気持ちで、
心から満足できる本当に素晴らしい舞台でした!!