やっぱりLiveが好き

目の前の空間を味わうのが好きな人の記録🍀

「八月納涼歌舞伎」8/14,22,27  歌舞伎座 ②

<新版 雪之丞変化

夢のようなシーンの後、菊之丞が立派に雪之丞を育ててきたことを称える星三郎の場面から、病魔に侵された星三郎が倒れ、雪之丞と菊之丞へ最後に語る場面。

この時の星三郎、菊之丞の気持ちのやり取りがとても繊細に表現されていて、星三郎が亡くなる場面では、雪之丞を含めた三人のお互いを想う心を星三郎と菊之丞は熱く、雪之丞は静かに受け止めながらも表していた。七之助さん中車さんの、これ以上はないというくらいの本気の心の表現に胸を打たれて、泣けて泣けて仕方なかった。

星三郎の雪之丞へのアドバイス「時を得よ」。「努力」という類ではないこの言葉が妙に残って、この作者の感覚の鋭さに惹かれたし気になった。

「一番良い女方になるには良い相手、夫役を見つけることである」という星三郎から雪之丞へのこの言葉。観ている自分が勝手に思うだけだけれど、玉さまと仁左さまを指すように聴こえたり、七之助さん自身への言葉でもあるようなことにも思えて、いろんなことが現実とリンクする芝居だなと思った。

「菊之丞の一番星になって見守っている」と言って亡くなった星三郎を悼み星空を眺めている雪之丞。この星空と玉さまというのが素敵で、歌のときにもこういった背景はあったけど、やっぱり素敵なシチュエーションと玉さまは合う。

心許なげに星三郎を星空に探す雪之丞が、星三郎が見たであろう「道」、芸道を広くするのも狭くするのも己次第、と刀を託され、仇との対峙にも心乱れることなくなっていく。だんだんと軸が出来ていく様子に静かな力強さを感じる。仇の娘、波路も玉さま。波路は映像で、お顔が正面から映らないような撮り方だけど、雪之丞を想う波路の後ろ姿の艶っぽいこと!!最後は父親の悪事を知って身投げしてしまうけれど、波路さんの後ろ姿だけでその艶っぽさと可愛らしさと儚さが感じられて素敵すぎた、好きすぎた。

仇に対し、亡くなったはずの自分の両親の姿に自らが扮して、仇たち同士を自滅させる。その時に、父の仮面、母の仮面を使い分け、仇たちを陥れていく。ここでも映像を効果的に使ってらして、おどろおどろしさが増す。

両親の無念を晴らした雪之丞。自分の仇打ちがどれほどの意味を持っていたのかと思うが、人のために役に立てる、役者の生き方を進んでいくことを新たな決意をする、という結末。力強さや大きさを感じる役も多いけど、心の揺れを表す繊細な役柄も玉さまにとても合っていた。

最後は元禄花見踊り。芝居までのほの暗さとは打って変わった明るさになり、長唄の方達に他の役者さん達もずらっと並んで華やか。舞台の真ん中で扇子を掲げる玉さまの雪之丞の晴れ晴れとした表情を見られることにより、雪之丞の今後の明るい未来を見せてもらえているようで清々しい気持ちになる幕切れだった。

 

今回、映像を使うことによりなるべくスピーディーに場面を展開させていることはもちろん、新しい映像の使い方、撮り方を組み合わせることでより効果的に見せたり新たなものを創り出していたと思う。それはこの雪之丞変化だけのことでなく、こういったやり方が出来る、という新たな提示でもあると思うし、切り開くことにより先へつなげていっているような気がした。こんなに斬新に、恐れることなく進んで行かれる玉さまは、毎回どれだけの勇気をもって挑まれているのかと思う。新しいことをするには恐れや不安、批判もつきもので賛否両論出てくるけれど、それよりも何かを見出し、自分以外の者へ新たなきっかけとして何かを提示することを大事にされている気がする。常にチャレンジしている玉さまの姿勢がとても好きだし、この方を好きでよかった、と心から思う。今回もまぎれもなくそういった月だった。