やっぱりLiveが好き

目の前の空間を味わうのが好きな人の記録🍀

シネマ歌舞伎「沓手鳥孤城落月/楊貴妃」

沓手鳥孤城落月

孤城落月の実際の時代、桃山文化長谷川等伯の障壁画が映されて、そこからその時代に作られた樂焼のお茶碗を手にして、お茶をたてるお茶室のお着物の玉さまの映像に変わる。夕景の大阪城も入り、当時と今をつなぐような映像になっていて、玉さまの語りとともに淀の方の背景がより感じられるようになっていた。

ここで、お茶碗を持つ玉さまの手もドアップに映るんだけど、短く切ってある爪、少しささくれがある右手の親指(たぶん!)を見て、玉さまの指もささくれたりするんだなぁ、そりゃそうだよなぁ、なんて思いながら、少しだけ生活感(というかお仕事感かも)が見てとれた指から目が離せず、あまりお茶碗を見ていなかった気がするので次回は両方を(笑)

歌舞伎座の花道を歩き、そして舞台裏で何か思いを馳せるように佇む玉さま。秀頼を演じた七之助さんの歌舞伎座でのインタビューもあり、その中で「玉三郎さんの目を見た瞬間、その凄さにこちらもその世界に引き上げられるようだった。皆そのようになってあの舞台が出来ていた」というようなお話をされていた。

本編では、どの瞬間も、玉さまはその瞬間の淀の方であり、その淀の方がそれまでに生きてきた背景、感情、抱えてきたことが、その在り方に現れているようだった。特別映像で事前に、淀の方のこれまで余儀なくされてきた生き方を聞いていたから余計に、抱えざるを得なかった悲しみや憎しみ、そんな人生の中でこのように生きる他はなかったこと、それらがあるから、このような言動行動、人への想い、見方、考え方になってしまったのだということが感じられた。

玉さまの感情表現は凄い。鬼気迫るとかそういう言葉では収まり切れないくらいの表現で、決して大げさにしているということでもなく、淀の方の気持ちがこれでもかと押し寄せてくる感じがする。

パンフレットの中で玉さまは「淀の方の千姫へのいら立ちは、秀頼を見捨てて逃げていこうとしたこと。

まったく思うようにならなかった(淀の方自身の)人生に対する矛盾をぶつけているのだと思った」と仰っていて、それを知ると千姫へそれだけのものが投影されているのだからこそ、あのような非情な態度になるのも納得がいく。

秀頼、周りの人達の背景がどういうものか、そういったことまで自然に感じとれるようであり、淀の方へのそれぞれの想いも伝わってくる。淀の方と肩を並べられるくらいの凄みを出さなければいけないコタさんの敵役も良かったし、疑われてもとがめられてもどんなに酷いことを言われようとも淀の方への気持ちが芯にある梅枝さんの饗庭の局。他の方達からも一瞬映る表情等からそのようなことは十分感じられるし、秀頼の葛藤と母への想いもとてもよく伝わってきて、全体の熱量が高い(あからさまでなく、内にあるものが高い)というか、特別映像で七之助さんが仰っていたことがよくわかるような気がした。

淀の方の秀頼への愛、錯乱の中、秀頼を認識できていないこと等から感じられる哀しさ、本当にいろんな想いを感じる作品だった。劇場で見ても玉さまの凄さは十分感じていたけれど、映像では、常にその表情がわかり、全身からあふれるものが伝わってくる。今までにも、玉さまは物凄い役者さんだと感じていたけれど、今回さらにさらにその凄さに圧倒された。その方を舞台で、また映像で拝見できること、感じられることは心底幸せなことなのだと思う。今回のシネマ歌舞伎化で、そのことを再認識するくらい、凄い作品になっていました。

 

楊貴妃

本編が始まる前の特別映像で中国の水辺のお庭のようなところが映し出され・・・たのですが、エンドロールを見ていたら「浜名湖ガーデンパーク」の文字。調べたところ、ガーデンパークの国際庭園というところに「中国」エリアがある!!玉さまが特別映像内でお話されている室内の場所はガーデンパークかどうかは不明(多分違うかも、次回要確認)だけど、その外の映像はとても近いものがあったのでもしかしたらここの場所を撮ったのかも!!とテンションがあがりました(笑)

その映像内では気持ちのいい自然と、中国のような建物が映し出され、中国らしいお部屋で中国服(なんて言うのかわからないけど、一目でそうわかるような服)をお召しになった玉さまがお話されていて、一気に気持ちが中国になるような映像だった。そういうところが、玉さまらしいなと思うし、それがあるからより、楊貴妃の背景も感じられるんだと思う。

「中車さん演じる方土は、この世とあの世を行き来できる妖術使い」と玉さまが仰っているのを聞いて、なるほど!と。どうしてあの世に行けるのか、そこはなんとなく捉えてたらいいのか、などと考えたこともあるけど、行き来が出来るお役なのであった(笑)

本編が始まって、お箏の音色がとても綺麗にちゃんと捉えていて、歌舞伎座で感激したあの曲の心地よさが映像でも近い感覚で感じられた。低くて深い音のお箏の音色が公演中から大好きで、それがそのまま残っていて嬉しかった。淡々とした中に深くて軽い、なんとも不思議な感覚になる曲。

しばらくすると、手前のカーテンが一枚、一枚と開いていき、そこには鳥かごのようななかに佇む楊貴妃。その鳥かごのようなところに暖簾の細いような布が上から垂れていて、その隙間から楊貴妃が見え隠れしてる。その暖簾みたいなのを、端の方から開ける優雅さ。その楊貴妃をアップで写しているんだけど、遠めでも感じるけど、アップでもとてつもない美しさ!!あんなにも綺麗な人がいるんだろうか・・・

楊貴妃の舞に柔らかな空気とその流れがあり、ひとつひとつの動き、黒髪に手をやったり、そういったことにも美しさと気品が感じられて、まさに夢の世界だった。二枚の扇を持った時にビシッと決まり、がらっと表情も視線のやり方もかわるところの歌詞を知りたい。楊貴妃はまだ自分の観劇伸びしろがあるので(笑)、次回は楊貴妃の視線の先をもっと感じてみたいと思う。