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「めんたいぴりり~博多座版~未来永劫編」 博多座 4/5昼の部 4/6昼の部

川原和久さんのことを書く記事が、何気に初!!

初にふさわしいこの舞台、九州・北九州出身の川原さんが

同じく九州・博多を舞台にしたお芝居にご出演、となれば

行くしかないではないか!!と、久々の博多座遠征に行ってきました。

自分が覚えておきたくて書くので、完全ネタバレ。

 

初日レポで一部ネタバレの写真は見たくらいでまったく前情報なし、

前作の情報等も調べなかったけれど、ただ観た人からの評判の良さや

関係者の方からの声は目にしていたので、良い作品なのだろう、ということはうっすら思ってた。

 

人が良くて面倒見のいい、主人公、海野を演じる博多華丸さんがもうはまり役。

人が集まり頼りにするのはもっともだと思う、温かくて楽しい人を表情も動きも

表現がほんとに豊かで、凄い方だと思った。

奥さん役の酒井美紀さん。旦那さんを叱咤しながらもその良さをよくわかっていて

受け止める柔軟さ、力づよさ、優しさを持った人を思い切り演じていて素晴らしかった。

 

その海野さんが高齢になり、今まさに病室で亡くなろうとしている場面から始まる。

汽車の音が鳴り、海野さんと関わった様々な人たちが寄り添う。「皆で過ごした楽しかった日々、懐かしいその時間、あの頃の夢をもう一度見よう」と。そこから昔の日々の出来事を思い出すように展開される。

昭和30年代が背景で、セットも美術も、その時代を体験したことがなくてもとても懐かしくて気持ちが温かくなる。

海野さんの、近所や知り合いの人とのやり取りのなかにもしっかりとした繋がりがある。また、通りすがりから始まったものの海野さんのそのつきあい方、心が、相手の人生を、本来のその人の生き方に変えていく。


そういったなかで、この舞台のひとつの大きなエピソード…誇りをもってしていた博多人形作りの仕事も今はできなくなり、度々海野さんを頼りにくる丸尾を演じる小松政夫さん。人に頼ることばかりでも、その存在が皆をほっとさせる丸尾さんが、冗談まじりに「最近三途の川から(亡くなった)女房が迎えに来る夢を見る。そんなしけたもんでなく、博多者なら機関車で派手に迎えに来てほしい」というような台詞が出てくる。その後、丸尾さん自身と奥様がモデルになっている大事な博多人形を面白半分にチンピラに絡まれて取られ、皆のお陰で取り返すものの、いつもと同じようにお金を海野さんからもらうかわりにその人形を置いていく。その後、ふらっと海野の店ふくのやを訪れた丸尾さん、「店の明太子は(売れてはいないけど)絶品だ。そのうち有名な野球選手が明太子を買いにやってくる。綺麗にひとつ包んでほしい」といつもは払わないお金を払って、丁寧な丁寧なお礼を言って帰ってく。さむがっていた丸尾さんに海野さんは自分のジャケットを羽織らせて見送る。

その後海野さんは警察から自分のジャケットと、丸尾さんの遺書を受け取り、丸尾さんが自殺したこと知る。

戦争時代、食べることもできず死んでいった仲間たちのことを思い、「美味しいもので人を幸せにする」そう誓って売れない明太子づくりをあきらめずにやってきたのに、丸尾さんの苦しみにも気づけず救えなかったと悔み、明太子づくりを辞めようとする海野さん。その海野さんの前に、死んでいった仲間たちが現れ、自分たちが死ぬ間際に海野さんが食べさせてくれた(空想の)明太子の味はこんなものではなかった、もっと美味いものではないのか?と言われ、今までついてきて支えてきてくれた奥さん千代子さんたちの気持ちに気づき、絶対にその味を完成させる、とあきらめないことを誓う。

丸尾さんは死ぬ前に、明太子が好きなその有名な野球選手のもとにふくのやの明太子を届けていたことで店は有名になり、海野さんたちの努力もあってどんどん繁盛していく。

 

丸尾さんがあの世へ行く、ということを表すときに、汽車の音とともに、丸尾さんが愛した博多の祭り、山笠の神輿を先導しながら去っていく。実際の舞台は、この言葉よりももっと繊細で素晴らしい場面なんだけど、この時の演出、小松さんの表現が、丸尾さんの人生そのものをあらわしているようで胸が締め付けられるような気持になる。

 

戦争時代に海野さんの上司、上等兵だったのが川原さんの演じる中村伊佐美。戦争時に足を負傷し、その時に海野や死んでいった部下たちが食べていた空想の明太子を食べることを誘われても「そんなままごとはできない。上手い本物を作って俺に食わせてみろ」ということを海野さんに伝えていた中村さん。生き残ったものの、生きることに意味を見いだせない中村さんだが、腐った性根の者には容赦ないといった心根はかわらない。そんな中で海野さんと再会した中村さんは、ふくのや常連の、息子が戦死したことはとっくに知っているのに今でも息子がいつでも帰ってきてもいいように、息子の好物の明太子を用意しているさおりさんから、海野さんは真摯に美味しい明太子づくりをしていることを知る。さおりさんとの出会いもあり、そこから生きなおしを始めた中村さん。

 

こうしていろんなひとの人生を変えるきっかけにもなった海野さんが過去を振り返り終わり死ぬとき、大きなSL機関車が迎えに来て、それに乗った海野さんは、生きている皆に

「がんばれよ!」と伝えて去っていく。

 

最初の場面から聴こえていた「機関車の音」が最後にこのような形となって現れる。しかも丸尾さんの願っていた、機関車という形で。

この大きな機関車の場面。最初の日に一階から観ていてそのときも迫力があったけれど、次の日急遽追加した三階から観たその場面は、その機関車と海野さん、その周りの空気からもそれまでのこと、海野さん個人というかそれをふくめたもっと大きな応援のような想いがうわーっと迫ってくるように感じられた。その場面では舞台上だけでなく、客席頭上からも紙吹雪がどんどん降ってきて、一階の真ん中列付近は物凄い量が落ちているのだけれど、その演出がまた素敵で、明治座でも変えてほしくないと思う。

こうして文字で書いている以上に、舞台で感じたそれぞれの人達の人生、想い、それらすべてがここに集約されてる気がして、感激して今でも心に残っている。

その「それぞれの人」・・・舞台に登場するすべての人達が、一人一人、いきいきと輝いていて、その他大勢、なんていう人は一人もいなかった。すべての人の特別なエピソードが語られるわけではないのに、その時代に生きている、心をもってその人を生きている、という感じがした。その一人一人の存在がきちんとある、また一人一人性格も何もかも違うし、聖人君主のような人でもなく、みんな人間らしく人間くさく生きている、それがこの舞台を、私が今まで見たどの舞台とも違うような、底辺に温かなものがずっと最初から最後まで流れている、そういうものに感じたんだと思う。

 博多という土地を背景にしたこの舞台、人と人との結びつき方もまたこの土地ならではのものもあって、西鉄ライオンズファンだとわかると、それまでいがみあっていた人達が手を取り合う。そういう一見強引に見えるようなこういう場面も、人間らしくて温かくて可笑しくて、とても好きだった。

明太子の材料、スケトウダラの精という、ありえないような役ででている大吉さん。そういう役なのにそれを成り立たせていて、また愛すべきものにしている大吉さんも凄い。

出演者の中には、華丸さん大吉さんはもちろんのこと、他にも芸人さんの方も多くいらして、芸人さんじゃない方ももちろんいらっしゃるけど、とにかくすべての人の台詞、言葉のやり取りの間や空気が素晴らしくて、また笑いの場面も多くて、その点も心地よく見ることのできた理由のひとつだと思う。

ふくのやの従業員の方達が、海野さんが明太子づくりをやめようとする場面で涙する。笹島役の福場さんを見ていたら、その本気の心からの涙につられて泣けるほど、伝わってくるものがあった。

 

小松さんは前半では往年のギャグを惜しげもなく披露してくれて、後半では存在感と繊細な表現で丸尾さんの人生、というかもっと大きい何かを見せてくれているような気さえする。

丸尾さんが最後にふくのやを訪れる場面で海野さんに「最後の最後まで(世話になって)」という台詞が、5日にはあった。海野さんもそのときのことを振り返るとき「(そういえば)最後の最後まで、って…」と台詞にあったはずだか、6日にはその台詞はなかったと思う。

その台詞がないほうが海野さんが気づかなかったこととして自然になる、ということなのかもしれない。

それを知ってこの芝居は、日々改良を重ねていくのなのかなと思った。

演出家の人によって変化していったりしなかったりだと思うんだけど、改良を重ねていく、という舞台はより良いものを見せる、という意識を持ってらっしゃると思うからそういう方の関わるものはたいがい好きなんだけど、今回もそうなのかもしれなくて、やっぱりそういう方が作ってるんだ、と(勝手に)思って嬉しくなった。

 

川原さんは戦争中の無骨さから、やさぐれた男(この時はちゃんと髪の毛も乱し気味にしているがもともとサラサラなので少しの変化なんだけど!なんか、乱れてるよね?ってわかるのでこの髪型のときの川原さんも素敵)、そこから海野さんに感化されて生き方、人生をも変える、変化にとんだ役で、ほんとにいろんなシーンが観られて嬉しかった。

川原さんのかっこよさ、海野さんにさおりさんとの仲を誤解されまいとする必死な可愛らしさ、さおりさんに不器用なプロポーズをする男らしさ、軍服からお着物、全部が素敵、眼福。

さおりさんが旗を振ったあと、海野さんがさおりさんに向けてエールを送り始めたのを見て、その直前に海野さんにさおりさんの息子さんの真相を伝えた責任やさおりさんのことを思い、しまった、という顔をする伊佐美さんの表情にさまざまな思いが見てとれた。

プロポーズの言葉「さおりさん、俺と結婚してくれんね?」←確か、してくれんね、だったはず!!明治座で再度確認しますが!!

 

川原さんが観たくて行った博多座。川原さんの役は想像以上にいろんな場面を見れたし、とても素敵な役で本当に観に行けてよかった。それに、こんなにも素晴らしい舞台に出会わせていただけて、感謝しかない。

舞台自体はお客さんの入りがそこまでよくなく、とてももったいないなと思った。

良さが、素晴らしさが、もっと伝わったらいいのになと思う。関わる人達にもその反応がすぐにわかるように、どうか広まりますように。